南雄三/住宅技術評論家
省エネ・エコハウスの学術的な研究成果を独自のフィルターに掛けながら住宅業界、消費者に伝達していく住宅技術評論家。住宅産業を知り尽くした目で住宅産業全般のジャーナリストとしても活躍。故上野貞男、櫻井匠氏とは古くからお付き合いがあり、現在もueno主催の勉強会で講師をお願いしてきた経緯もありR2000+プロジェクトの総監督を依頼。
22年も前、まだ寒い生活が当たり前だった日本で、北海道で高断熱・高気密化がスタートしました。断熱先進国スウェーデン、カナダから技術情報を仕入れ、見よう見まねの取り組みがはじまり、すぐに東北、信越に波及したものの、それはほんの一握りの活動でした。
そんなときに上野貞男社長は果敢に高断熱・高気密に取り組み、ご両親の家をカナダの超高断熱・超高気密住宅(当時はこう呼んだ)R-2000基準でつくります。それは本州の高断熱・高気密化の先駆けとなりました。 当時、新潟だけでなく全国の住宅業者、建材メーカー、業界メディアが注目し、見学会には大勢の人が集まりました。私もその一人でした。しかし、ご両親が他界後、この家は使われることもなく時は過ぎていきました。
そして上野貞男社長、モデル住宅を設計した櫻井匠氏も今はもういません。小さな熱で全室暖房がテーマだった高断熱・高気密ですが、今では温暖化防止をめざして生活全般の省エネに視野が広がっています。更に太陽光発電などの創エネによってゼロエネが可能になり、更に創エネが大きくなれば建設時や廃棄時に放出するCO2をマイナスして、LCCO2をゼロにし、マイナスに持ち込むこともできます(LCCM)。 こうして住宅省エネは22年前とは大きな違いをみせながら発展しているのです。3.11に起こった東日本大震災による原発事故は広い範囲での停電、安全をめぐっての脱原発議論を巻き起こし、自然エネルギーへの転換を強く叫ばれせることとなりました。
このような状況で上野美代子現社長は、22年前に日本の住宅省エネに革命を起こしてみせたR-2000モデルを復活させ、新たな省エネ要素を載せて、再び新潟のそして日本の住宅省エネのモデルに再生することを決意されました。そして私は復活プロジェクトの総監督を命じられたのです。22年を経過したR-2000モデルは随所に、雪深く・夏暑い長岡の省エネ住宅がどうあるべきかをみせながらも、実に美しい。櫻井氏渾身の建築作品と感心しながら、この美しい建築から学ぶことは多いはずと気持ちが昂ぶりました。
さっそく、復活プロジェクトがスタートしました。「社員が自ら創る」ことを前提としたチームをつくり、改修設計を長岡で高性能住宅を設計しているオーブルデザイン・浅間英樹氏にお願いし、毎月会議の繰り返し。モデル住宅の改修計画を検討しながら、地域の方々に活用してもらうこと、地域の業者の方々の勉強の場になってもらうことをテーマに企画を進めていきました。
全国で高気密・高断熱住宅が建築され始めてから20年が経過し、当時は高性能住宅として素晴らしい性能であった建物は、窓の劣化、外壁の痛みが目立ち始めている。また近年より一層の省エネルギーへの関心が高まり、窓・外壁の修復と同時に異なる高断熱化に簡単にレベルアップをねらった計画とし、さらに自立循環が可能な住宅設備を合わせて計画する。
① 天井・床はそのままとし、壁とサッシの断熱を強化する。
② 壁は既存品+ウッドファイバー(木の断熱材)140mmを壁の外側に付加する。
③ 外壁は同じレッドシダー(米杉)に貼り替える。(一部壁面は既存のものを再び貼る。)
④ 窓廻りにおいて、単独のメンテナンスが可能な形で作る。
⑤ 高効率でメンテナンスしやすい換気装置を組み入れる。
K値 | ||
天井(屋根) | 現状のまま | 0.21 |
壁 | 現状+ウッドファイバー140mm | 0.20 |
床 | 現状のまま | 0.24 |
窓 | すべて取り換え 木製トリプルサッシLOW-E | 0.82〜1.59 |
壁付型太陽光発電パネル | 雪国において太陽光パネルの設備条件の緩い、壁付き型の提案 |
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シンプルな冷暖房換気 | 汎用型のエアコンとダクトの少ない換気設備の提案 |